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憂国愚痴φ(..)メモ  by  昔仕事中毒今閑おやぢ in DALIAN

憂国愚痴φ(..)メモ by 昔仕事中毒今閑おやぢ in DALIAN

2005年中国は?そして日本

(2005/01/04)

◆対談「中国社会の今後 胡-温体制の行方」(3-1)

民間シンクタンク主任研究員・仲大軍

清華大学国情研究センター教授・胡鞍鋼

 中国は昨年9月に江沢民氏が完全引退したことで、胡錦濤国家主席(共産党総書記)が名実とも最高指導者の地位を確立した。温家宝首相とのコンビは「胡-温体制」と呼ばれ「国民本位」の政治を掲げ、成長第一主義がもたらした貧富の格差拡大など矛盾の解決に取り組む。しかし、社会が多元化、国際化する中で、一党独裁体制の維持をはじめ、頻発する農民暴動や労働争議の解消、持続的な経済発展など問題は尽きない。中国の民間シンクタンク「北京大軍観察研究センター」の仲大軍・主任研究員、清華大学国情研究センターの胡鞍鋼教授と、中国社会の今後を語った。(中国総局長 伊藤正)=敬称略


 伊藤 改革・開放の二十六年間、経済の市場化、国際標準化が進んだ。生活水準の向上に伴って、社会も多元化し国民の価値観が急激に変わった。その一方で、共産党独裁の強権政治は続き、政治改革も民主化も停滞した。貧富の格差や腐敗の広がりなど矛盾が大きくなり、国民の共産党不信は深まっている。中国政治はどこへ向かうのかを中心に意見を聞きたい。まず現在の政治状況をどうみるか。

 仲 政治状況は政権と社会の二つの面からみる必要がある。社会の要求が政権を変え、政治を動かすからだ。中国政治は歴史的に、政権と社会の力関係で動いてきた。共産党が政権を取り、専制政治を敷いて以来、社会は封じ込められたが、現在は違う。社会の変化、要求に対応しない限り、専制政治も続かない。江沢民体制から胡錦濤-温家宝体制への移行は、社会の要求に沿ったものといえる。

 伊藤 一九八九年の天安門事件後から二〇〇二年の十六回党大会までの十三年間続いた江沢民時代に、中国経済が飛躍し国民生活も大幅に改善されたと評価されている。胡錦濤も江沢民を称賛し、「三つの代表」思想を継承しているが。

 仲 江沢民が計画経済から市場経済への移行と対外開放を推進し、今日の繁栄を築いた功績は否定できない。半面、格差の拡大や腐敗などさまざまな矛盾を生んだ。今日、失業者が増大、各地で農民や民工(出稼ぎ農民)の暴動やストが頻発しているが、こうした事態はかつてなかった。

 伊藤 その根は江沢民時代にある、と。

 仲 そう。江沢民の経済政策は、実質的に弱肉強食の自由主義経済だった。もともと中国は格差の大きな社会だが、それがさらに広がった。富裕層がぜいたくな生活を享受する一方で、農民や労働者の多くは貧困にあえぎ、社会のバランスは著しく失われた

 伊藤 あなたは都市と農村の二元構造の矛盾を最も早くから指摘してきたが、最近の中国社会科学院の調査は、中国社会が十の階層に分化し、国家や企業の管理者らを頂点に労働者、農民が底辺を構成するピラミッド社会と分析している。

 仲 江沢民時代には、国家と経済、社会のエリート層が権力と経済資源を独占し、富を共有するシステムが出来上がった。富の偏在も問題だが、大小の官僚らの腐敗が広がったことこそ重大だ。たとえ高位指導者が腐敗撲滅を訴え、腐敗幹部を処罰しても、下級官僚が権力を使い、私利を図るのは避けられない。

 伊藤 最近は、判事や検察官にまで汚職が広がった。公判関係者へのわいろで量刑が軽減されるのは弁護士の間では常識だ。司法機関も報道機関同様、党に従属、独立しておらず、党官僚の腐敗への監視機能に限界がある。腐敗拡大は政治体制改革の停滞に原因があるのではないか。

 仲 江沢民は資本主義思想や欧米文化の導入には開放的だった。しかし政治体制に関しては保守的で、政治改革は停滞どころか、後退したとさえいえる。その上、彼は伝統的な統治様式を復活し、かつての毛沢東同様に個人崇拝を強め、国内の反感を買った

 伊藤 江沢民は昨年九月の中央委員会総会(党十六期四中総会)で、唯一保持していた中央軍事委員会主席を辞任したが辞任は遅すぎた。

 仲 そう思う。軍権を胡錦濤にやっと引き渡したが、見苦しい下野だった。十六回党大会で、彼は完全引退すべきだった。既に社会矛盾は頂点に達し、新しい政治が必要になっていたからだ。

 伊藤 温家宝が首相になり「胡-温体制」が発足してから間もなく二年になる。この間、二〇〇三年の新型肺炎(SARS)への対応に始まって、「国民本位」の諸政策を打ち出し、バランスのとれた持続的発展路線へ移行、格差の縮小や腐敗の撲滅など矛盾克服に取り組んでいる。「胡-温体制」をどう評価するか。

 仲 江沢民時代に山積した矛盾や問題の解決に取り組む姿勢を高く評価している。両氏とも政策に通じ、特に農村の惨状など問題点は熟知している。もし胡-温体制が利益配分を調整し、社会のバランスをとる方向にいけば、社会は安定、平和的発展を可能にするとみている。

 伊藤 あなたは昨夏発表した論文で、改革・開放路線の二十数年、トウ小平らの強人政治、専制政治は、社会秩序を安定させ、経済建設の発展に有利だったが、官僚と資本が結びついた「官僚資本専制」に変じ、さらに矛盾が大きくなった後で「明君(開明的君主)政治」が出現したと述べている。

 仲 中国の封建時代には「王儲制」といって、長期にわたり王位継承者の執政能力や道徳素養を育成する制度があった。胡錦濤、温家宝とも老世代が早くから目をかけ、鍛錬したという意味では、王儲制の産物で、「明君」の資質を備えていると思う。しかし、王儲制は彼らを最後に終わり、指導者を普通選挙で選ぶ民主体制へ移行するとみている。強人政治は復活不能で、民主政治も未確立な中で、胡-温体制下の中国は複雑、かつ混乱した時期に入るかもしれない。

 伊藤 胡錦濤や温家宝が優れた資質を持つ政治家であることは同感だが、彼らの発言からは、一党独裁体制を変える意思はみじんも見えない。例えば昨年の四中総会で決定した「執政能力建設強化」も、一党独裁を維持するための党内改革でしかなく、政治体制の改革にはほど遠い。

 仲 中国の改革には時間がかかる。当面、胡-温体制の急務は社会矛盾を緩和し、安定成長を維持することであり、そのためには中央集権制を強化するとともに、執政能力を改善するしかない。国内でも複数政党化による民主制が急務との議論はあるが、中国人一般には、民主制への要求は高くなく、社会の安定と生活の向上を望む声が大多数だ。一党独裁といっても毛沢東時代とは違い、個人の自由度は大きくなっているからね。

 伊藤 しかし多くの矛盾は一党独裁体制から派生している。独裁を強化した江沢民時代に、矛盾が激化、拡大したのもそのためだ。かつて趙紫陽(天安門事件で失脚した元党総書記。北京で軟禁中)は、党と行政の分離などの体制改革を目指したが、例えば司法の独立や報道の自由化などの改革はできるはずだ。

 仲 公民の権利の回復が(政治改革プロセスでは)先決だ。一九七八年の憲法改正では「言論、通信、出版、集会、結社、街頭デモ、ストライキの自由」のほか、「大字報」(壁新聞)を張り出す権利も規定されていたが、八〇年に大字報などが削除され、八二年には「ストの自由」も削除された。天安門事件で官の側が勝利した後、民権は縮小、官権が強大化し、中国の社会的基礎を著しく弱めた

 伊藤 胡錦濤は総書記就任直後の演説で、憲法を国の最高法規とし、その前ではすべての公民、政党、団体も平等と強調した。しかし現実には、「党権」「官権」が公民を支配する体制に変化はない。最近の報道規制強化もその一例だ。

 仲 共産党宣伝部が締め付けを強化しているのは知っている。中国の報道機関は党や政府から独立していないが、新聞界や社会の強い反発があれば、変わるのではないか。公民の権利が十分でない状態の中で、報道規制が容易になっているように思う。

 伊藤 報道規制は「民には知らしむべからず」という一種の愚民政策だ。例の「執政能力建設強化」決定の中でも、報道機関は党の宣伝機関という毛沢東以来の規定を墨守しており、胡錦濤の「民主」には強い疑問を抱かざるを得ない。本当に彼は民主政治への橋渡し役なのか。

 仲 それは胡錦濤の意思にかかわりなく、内外の客観情勢がそうさせていく。経済や社会が国際標準に接近する中で、政治体制だけが変わらないわけにはいかない。北京五輪だ、上海万博だと民族主義を鼓舞し、軍備を増強していけば、透明性を欠いた独裁体制のままでは外国との摩擦が大きくなるだけだ。民族の悲願の「祖国統一」も民主政治が実現しない限り不可能だろう。

 伊藤 民主体制実現には何が必要か。

 仲 一党独裁の終結の前に、共産党以外の政党の登場が必要だ。全国的政党が束ねないと、中国はばらばらになってしまう。九八年に(地下政党として)誕生した中国民主党はつぶされたが、社会の多元化、多階層化に伴い、多様な社会組織、党派が今後拡大し、政党の基盤になるだろう。時代は着実に複数政党化へ向かっていると思う。

 伊藤 台湾では市場経済化が進んだ八〇年代後半に国民党の一党支配が終わった。それは経済の合理性と政権の合法性が問われた結果だった。

 仲 共産党政権は昨年、官の権限を制限する「行政許可法」を制定し、民権の拡大に一歩踏み出した。こうした動きは今後、続くだろう。それなしでは社会の利害調整ができず、矛盾の解決もできないからだ。ただ当面は、社会を安定させる必要が優先し、急激な変化は期待できない

そのまま、タイム・オーバーな予感w

 伊藤 民主政治体制への移行はいつごろか。

 仲 胡錦濤は(二〇〇七年開催の十七回党大会で再選され)二〇一二年まで総書記を務めるだろうが、その間は独裁を維持しながら政治改革を重ね、移行への準備をするだろう。あと十年から二十年の間に、民主体制に変わるとみている

プッ、分裂予想時期と一緒、だったりしてw


◆対談「中国社会の今後 胡-温体制の行方」(3-2)

 伊藤 中国は二〇〇四年も高い経済成長を遂げる一方、社会矛盾が激化し一〇年までに重大な社会危機が発生するとの調査もある。あなたは近著『中国-新発展観』で、胡錦濤と温家宝の体制が、矛盾解決のため経済と社会のバランスをとり、持続的発展を目指す「新発展観」について詳述している。

 胡 この本は二〇〇三年秋の中央委員会総会(三中総会)が「以人為本」(人を基本とする)という新しい発展観を打ち出した後でまとめて〇四年一月に出版した。この後の同年二月に温家宝が閣僚と地方省長のグループに対し新発展観についての報告をした。この報告は胡-温指導部の代表的な施政綱領だ。

 伊藤 胡錦濤が三月に打ち出した「科学的発展観」のベースになった報告ですね。新発展観は二〇〇二年の第十六回党大会の路線から軌道修正したようにみえる。

 胡 党大会は二〇二〇年に国内総生産(GDP)を二〇〇〇年の四倍にし、国民生活を「まずまずの水準」にする戦略方針を決めた

南ギャグ30万人と決めた、と同じでっかぁw

その綱領である「三つの代表」思想は、経済成長の継続が主眼だった。これに対し温家宝報告は、初めて「社会矛盾の突出期」という概念を提示した。党大会の経済発展という一点論から、経済発展と併せ社会矛盾の解決にも力を入れる二点論への転換に特徴がある。

 伊藤 党大会直後、中国は新型肺炎(SARS)という未曾有の災難に見舞われた。あなたはSARSに関して厳しく警告を発し、いくつかの提言もしてきた。新著でもSARS問題から書き出し、新発展観との関連を指摘している。

 胡 SARSが中国の社会や指導部に与えた衝撃は絶大だった。SARSが短期間に制圧できなかった場合、恐ろしい結果になっていたろう。中国は国際社会から「封鎖」され、対外経済も国内経済も致命的な打撃を受けたはずだ。そうした事態を招く条件が中国にはあった。

 伊藤 経済が発展した北京でも感染拡大を防げなかった。一般市民の住宅・衛生環境も不十分な上、さらに劣悪な生活条件にある民工(出稼ぎ農民)が数百万もいた。当時、胡-温指導部が最も懸念したのは、満足な医療施設もない農村部への感染拡大。温家宝は「農村に拡大したら手の打ちようがない」と語り、防止に全力を挙げた。

 胡 SARSは中国の発展の陰にある社会の脆弱(ぜいじやく)性と矛盾を暴露した。その点について私は、十年ほど前から指摘してきたが、二〇〇三年六月の温家宝主催の専門家会議と同九月の国務院(内閣)の研究会で、改めて貧富の格差拡大や環境破壊など「五大矛盾」として提起した。それらは経済発展を持続する上での「挑戦」でもあり、新発展観にも反映したと思う。

 伊藤 成長に矛盾が伴うのはどの国の発展過程にもある。新中国発足後の歴史を振り返るとどう概括すればいいか。

 胡 色で説明したい。毛沢東時代の「赤」、トウ小平・江沢民時代の「白と黒」から「黒」への転化、そして現在の「緑」だ。毛時代は土地改革などで農民を解放した初期には大きな成果を上げたが、重工業化を本格化した一九五八年の「大躍進」以降は、過酷な収奪によって農村を疲弊させ、一千万人以上の餓死者を出した

あれ? 認めるのね?w

トウ小平が「白い猫でも黒い猫でもネズミをよく捕る猫がよい猫だ」と生産力回復を訴えたのは六二年。七八年に始まった改革・開放路線の原形は白猫黒猫論だ

 伊藤 それがなぜ「黒」になった、と。

 胡 手段を選ばずネズミを捕り続けた結果、環境破壊が深刻になったためだ。温室効果ガスの排出量では、中国は米国に次ぎ世界二位だが、大気や河川への汚染物質排出総量は米国の三倍との統計がある。空気が黒くなっただけでなく、格差の拡大など社会矛盾が激化した。「緑」、つまり新発展観はそうしたアンバランスな発展方式からの転換にほかならない。

 伊藤 あなたは「中国が直面する五大挑戦」として、(1)都市と農村の格差拡大(2)地域間の発展格差の拡大(3)経済発展と社会発展のアンバランス(4)資源環境と発展のアンバランス(5)経済成長と就業増のアンバランス-を挙げている。このうち(1)と(2)の格差問題は、豊かになる条件のある人が先に豊かになるというトウ小平の「先富論」が大きな要因だった。

 胡 先富論が改革・開放初期に果たした役割は大きかった。しかし市場経済化が進んだ一九九〇年代初め、トウは貧富の格差拡大を警告し、四大矛盾を指摘した。民族、階級、中央と地方、地域間の四つの分化だ。そして「先富」は「共同富裕」が目的だと改めて強調した。しかし、江沢民は九二年から二〇〇二年までの三回の党大会における報告で、格差問題を主題にはしなかった。江沢民時代は経済繁栄の時代であると同時に、格差拡大の時代だった。

 伊藤 もともと都市と農村、沿海部と内陸部の格差は大きく、経済を急成長させるには都市や沿海部に資本を集中させるほかなかったが、それが極端に広がった。胡-温政権の目指す「共同富裕」は毛沢東時代の目標でもあった。

 胡 ある意味で「緑の発展」論は、毛沢東的要素を持っている。毛も五六年の「十大関係論」でバランスをとった発展を説いていたが、毛時代には平均主義に陥り経済を停滞させた。全体が疲弊しては共同富裕どころではない。毛沢東の平等思想とトウ小平の発展理論を組み合わせたのが新発展観だ。つまり進んだ部分の発展を持続しつつ、遅れた部分に重点投資するなどして格差を縮小するということだ。

なんか随分お手軽に仰いますがぁw

 伊藤 〇三年秋の三中総会以降、「三農」(農業、農村、農民)対策が最重点になったが、単に投資強化だけでは、解決しない。

 胡 三農問題は当面、最重要かつ最難関の挑戦だ。中国の現状を私は“一国二制度”と呼んでいる。香港に適用しているものではなく、都市と農村の二元構造のことだ。戸籍制度だけでなく、教育、医療、社会保障、税制など都市住民と農民の間には大きな差別、不公平がある。三中総会では戸籍制度の改革や農民への職業訓練実施、労働市場開設などを決めたが、既に見るべき成果を上げつつある。

 伊藤 例えば?

 胡 多くの都市で戸籍による差別を廃止し、民工の子女への教育を都市住民と同等にした。職業訓練は昨年は約百五十万人に施した。農業税の軽減や農業投資の拡大もあり、昨年は農民収入も8%前後伸びた。そのかなりの部分は、出稼ぎ収入だが。当面の三農対策は、かつての日韓のように、農村の余剰労働力を都市に移動させ、農業従事者を減らしながら、構造改革を進めることにある。

 伊藤 既に一億を超える民工は中国産業発展の基礎になってきた。最近、珠江デルタでは低賃金に不満の民工が他の地区に移動したりして、民工不足現象が起こっている。また年間数百万ずつ増える民工は、都市部でさまざまな問題を起こしている。長期的には西部大開発など内陸部の産業発展が必要だが、環境破壊にもなりかねない。

 胡 内陸部開発は、そうした問題のほかに、制度的な改革が必要だ。中国の行政制度は、中央政府、省(自治区、特別市を含む)、地区(自治州など)、県・市、郷・鎮の五級のほかに、副省級があり、私は「五級半政府」と呼んでいる。これは予算配分から農民への財政支出まで困難にし、統一的な市場をつくる障害だ

 伊藤 中国の低賃金労働力は外資誘致の武器になってきたが、最近、ハイテク分野で国内市場を外資系に奪われている。中国の技術開発が劣勢なためだ。こうした面で、日本に期待することはないか。

 胡 中国市場は開放されており、国外、国内企業を問わず投資は自由だ。世界貿易機関(WTO)に加入して三年、〇四年の貿易額は一兆一千億ドルと三年前の二倍半だ。日中貿易も拡大したが欧米の伸びはもっと大きく、日本のシェアは低下した。どの国も最新技術を投入、十三億の市場を目がけている。「日本よ、頑張れ」と言いたい。


◆対談「中国社会の今後 胡-温体制の行方」(3-3)
 【対談を終えて】

 ■矛盾と腐敗解消 確信もてぬまま

 毛沢東時代、極左イデオローグが使った表現に「進んだ上部構造と遅れた下部構造の矛盾」がある。上部構造(思想や政治体制)は進んだ社会主義なのに、下部構造(経済や社会)は遅れた資本主義の要素が残り、公有制経済の障害になって生産力を停滞させているという主張だった。

 これに対しトウ小平は、生産力向上には資本主義の原理しかないと考えた。公有制から私有制へ、計画経済から市場経済へ移行、外国の資本、技術も導入する改革・開放路線は、中国経済を飛躍させた。同時に中国人の価値観や生活スタイルも、欧米のそれに近づいた。

 「中国の特色ある社会主義」と自称する社会主義体制下の資本主義化は、上部構造と下部構造の新たな矛盾を生んだ。それは早くも一九八九年の天安門事件で爆発したが、当時よりはるかに資本主義化した今日、社会主義体制はどうなるのか。

 仲大軍氏とは初めて会った。北京に幾つかある民間シンクタンクは、社会の多元化現象の一つだ。政府の監督は受けないが、言論の場はインターネットや講演などに限られる。仲氏は「民主制への移行は必然」と述べたが、数年前に共産党を離党した自由な立場からの分析が印象的だった。

 対照的に、旧知の胡鞍鋼氏は政府に近いエリート学者。多くの問題が一党独裁体制から派生していることを、以前から指摘してきたが、体制内で改革、改善の方策を探る姿勢は今回も不変だった。

 当面、最大の体制内矛盾は貧富の格差と腐敗にある。両氏とも江沢民前政権に厳しく、胡錦濤政権の政策を高く評価したが、格差を生む経済成長を維持しつつ、一方で格差を縮小するのは至難に思えた。腐敗問題も官僚支配の独裁体制のままでは解決は難しそうだ。中国の将来について確信はもてなかった

(伊藤正)

                  ◇

 ■十大関係論 毛沢東が1956年、政治局拡大会議で打ち出した社会主義建設論。重工業と軽工業、沿海部と内陸部の工業、中央と地方、中国と外国など10項目の関係を論じ、バランスをとることを強調している。毛死後の76年12月に公表。95年には江沢民が「12大関係論」を発表し、改革、発展、安定の関係、第一次、第二次、第三次産業間の関係、東部と中西部の関係などを論じたが、経済発展に重点が置かれ、貧富の格差問題については注意を促すだけで具体策は打ち出していない。

 ■二元化構造 経済、生活、教育、衛生など中国のあらゆる面で都市と農村間にある格差構造をさす。1950年代の第1次5カ年計画以来、農産品を低価格で買い上げるなどして蓄積した資本を都市建設と工業化に投じてきた結果とされる。58年の人民公社化に際し、都市居住者と農村居住者の戸籍を分離、農民の都市への移動を事実上禁じる措置も、二元化を促進した。80年代初めに始まった農民の出稼ぎが拡大、最近になって戸籍による差別を見直す動きが各地で出ている。

 ■10大社会階層 中国社会科学院社会研究所が2002年に発表した現代中国社会の階層分類。収入や社会的地位を基準に10階層に分けられた。うちエリート層の上位3階層は、国家・団体の管理者、国有企業管理者、私営企業家が占め(計4.7%)、下位3階層の労働者、農民、無職・失業者を基層階層(計65.2%)としている。同研究所は04年には新たな調査結果として、10大階層が固定化し、例えば農民の子女がエリート階層に上昇することは「ほぼ皆無」といった分析結果をまとめた。

                  ◇

 ちゅう・たいぐん 1952(昭和27)年山東省生まれ。中国人民解放軍兵士などを経て82年復旦大卒。国営新華社通信に入り、経済報道などを担当。95年国務院発展研究センター発行の「中国経済時報」紙編集委員兼高級記者。2000年独立し、北京大軍観察研究センターを設立。歴史、政治、経済など幅広い評論活動で知られる。

 こ・あんこう 1953(昭和28)年遼寧省生まれ。文化大革命中の69年から7年間、黒竜江省に下放され、78-88年、北京科学技術大などに学び工学博士。その後、米エール大などで経済学を学ぶ。米マサチューセッツ工科大などで客員教授を務めた後、99年から現職。経済社会分析は有名で、中国政府にも頻繁に提言している。





◆新春正論対談 森本敏氏Vs武部勤氏(4-1)

憲法改正大きな「課題」に

米軍移転、国民の説得大事

 日本がイラクの復興支援に自衛隊派遣を決断したことは、戦後の外交・安全保障政策に関する歴史的な転換点となった。年頭に当たって第20回「正論大賞」受賞者の拓殖大学教授、森本敏氏(63)と、自民党幹事長の武部勤氏(63)に日本を取り巻く国際情勢、国内問題を中心に、日本の国のあり方など率直に論じてもらった。(正論調査室)

 森本 新年、明けましておめでとうございます。

 武部 おめでとうございます。また言論人として「正論大賞」を受賞されて、重ねておめでとうございます。

 森本 ありがとうございます。自民党の武部幹事長と新年早々の対談ですから、今年はどのような年になるか、率直にお話ししてみたいと思います。

 冷戦が終わって十三年過ぎましたが、ヨーロッパでは欧州統合が進展し、アジアでも東アジア共同体、東アジア首脳会議が開かれ、自由貿易協定が域内で広がり、経済的な相互依存関係がヨーロッパとアジアに広まっています。しかし、ロシア・CISあるいは中東・湾岸、南アジアは依然として不安定です。このような状況下でアメリカのブッシュ政権が今月から第二期政権になります。当面はイラク情勢を含む中東・湾岸政策、あるいは中東和平、イラン政策などが進むと思いますが、第二期ブッシュ政権の政策がどうなっていくかが、国際情勢を動かす重要な軸になると思います。

 大統領選挙の結果からみて、アメリカは保守主義の強い傾向を続け、テロや大量破壊兵器に対して戦い抜くという決心は変わらない。

 アメリカとしては、当面のイラクの国民評議会選挙を無事に乗り切り、今年末ごろに予定される自由選挙が行えるか。それまでに今月選ばれるPLOの新しい指導者とイスラエルがどのような中東和平を進めるのか。また、イランと北朝鮮の核開発をどうやって解決していくか。国際社会もどのように取り組んでいくのかという問題に直面すると思われます。

 国連は安保理改革を進めようとしていますが、アメリカは国連にさめています。ヨーロッパとの関係もなかなか改善せず、アメリカの一極主義と国際協調主義を、どうやって調和させるかという問題も続くでしょう。

 そこで武部幹事長にお聞きしたいのですが、今年の通常国会前半は、郵政の民営化、教育基本法改正を含めて国内問題が非常に多い。どういうところが焦点になるのでしょうか。憲法改正まで行き着くかどうかが今後の大きな課題であり、後半は憲法問題かなと思っていますが、どうなるのでしょうか。

 一方、外交面では日本の国連安保理常任理事国入りの問題があります。日本が今年から二年間、非常任理事国の議長国として役割を果たす間に、国連改革、安保理改革が進むかどうかは大きな課題です。

 武部 昨年(平成十六年)は台風の当たり年でした。十個も上陸し、死者、被災者は大変な数に上りました。さらに新潟県中越地震、北海道も震度5強の地震が続きました。そのため被災地域から早急な復旧・復興対策が望まれている。

 ですから通常国会冒頭では、補正予算の審議をまず行います。新潟県の大地震に対して、阪神淡路大震災以上の対策を速やかに打ち出し、まずは予算措置を優先する対策を講じる必要があります。この正月を被災者の方々がどのような思いで迎えたのかなと思いますと、希望の持てる補正予算を早期に成立させるべきでしょう。

 また、国、地方の財政赤字は増える一方です。不良債権の処理やデフレ脱却についてはメドがついてきました。その証しに十七年度予算では二兆三千億円の税の増収を見込めるようになりました。

 その中で、これからの日本の国の形をどういうふうに方向づけていくかが国会の焦点になり、予算審議にも反映されてくると思います。

 小泉構造改革は、地方でできることは地方に任せるというもので、その一つの柱が三位一体改革です。われわれの説明不足にもよりますが、三位一体改革というと、地方が追い詰められるイメージを抱いている人が多い。地方には約三兆円の税源移譲を行います。その中身は義務教育の国庫負担とか、国保とか、義務的経費が多いですが、いずれにしても補助金改革、税源移譲、交付税改革が三位一体改革です。地方が独自にいろいろ考え、実行できる、地方分権へその突破口を開く改革です。

 もう一つは、郵政民営化が大きなテーマです。これは民間でできることは民間に任せようということが柱です。GDPの約四割を占める官業を民間に開放するのが小泉改革の柱で、その本丸が郵政民営化です。郵政公社の職員は臨時も入れると四十万人います。公務員は約九十七万人ですから、三分の一の公務員が民間人になる大変な改革です。

 大事なことは、行政の役割が関与から監視へ、つまり事前規制型から事後チェック型になります。戦後六十年間のわが国の行政は、民間には能力がないとか、民間を信頼しないことを前提に多くの規制を設けました。小泉改革というのは民間を信用し、民間主導の自立経済型社会をつくろうというものです。自己責任原則に基づいて何でも民間が思うようにやってください、その代わり、でたらめを行ったら退場を願います、というのが消費者保護基本法だったり、独禁法改正だったりするわけです。

 さらに簡素で効率的な政府にするということも、避けて通れません。民間が血のにじむような努力をしている中で公務員は一体なんだと、国、地方に対し、国民の目はますます厳しくなります。公務員制度改革は連合などとの間でなかなか話はまとまりませんが、これにメスを入れていくことが内政上、今後の焦点になってくると思います。

 森本 財政が非常に厳しいというのはよく分かる。十七年度予算の編成でも、大変厳しい財政のカット、歳出カットが行われました。防衛費とか、ODAを抑えるとか、将来は国連分担金の問題もあります。他方において日本全体の人口も少し減ってきて、国力もこれから低減していくというときに、日本がアジアの中でどのような国になったらよいかという国の姿、国のあり方が問われています。国内におけるこれら一連の改革を進めるとどういう国の姿になっていくと考えるのがよいのでしょうか。

 武部 小泉構造改革の一つの方向は、やはりグローバルスタンダードです。責任ある国際社会の一員として生きていくためにはグローバルスタンダードで物事を考え、対応していかなければなりません。だから国内のさまざまな法律もそういうルールに作り替えていく、もう一つは官から規制を剥奪(はくだつ)して民間主導にしていく、この二つだと思います。

 森本 第二期ブッシュ政権の中で、日米同盟をもっと進めようという小泉首相の強いリーダーシップは評価されるとしても、結果としてアメリカから一層の貢献、同盟強化のための役割分担が求められてくるでしょう。政治・安全保障の面では最大の課題は米軍再編、経済面ではBSE(牛海綿状脳症)を含めた個々の貿易・投資案件で、今後進めていかなければならないテーマは多い。


◆新春正論対談 森本敏氏Vs武部勤氏(4-2)

 森本 ところで、遅くなりましたが、昨年十二月上旬のイラク・サマワの視察は、本当にご苦労さまでした。

 武部 やはり百聞は一見にしかずでした。クウェートからサマワまでは多国籍軍のヘリコプターで二時間ぐらいです。

 自衛隊の隊員の皆さんは、サマワ市内のみならず、ムサンナ県十一都市に出向き、給水事業、インフラ整備、生活道路などを丁寧に整備していました。自衛隊は、地元の人々から大変感謝されているという印象を受けました。私どもが市街地を視察した際に、沿道の人々が手を振ってくれました。ちょうど私たちが選挙のときに支持者の方々から声援を受けるような感じでした。また、建設ラッシュといってもいいほど住宅建築が盛んでした。

 治安状況については、病院や学校においても武装警察官がそれぞれ安全確保の態勢をとっている。短い間にそのような自治能力を持っていることは驚きでした。

 イラクの人々による民主的な国づくりに向けて、国際社会が協調してサポートすることは大事なことです。その中で、わが国も国際社会の一員として可能な限りの協力をしていかなければなりません。サマワは予断は許しませんが、安定していることは間違いないです。しかし、決して油断してはいけませんから、活動、宿営地の安全確保に万全を期していくことが大事だと思います。

 余談になりますが、クウェート領内の砂漠にテントがいっぱいあるんです。クウェートは金持ちの国と思っていましたから、どうしてこんなに難民がいるんだろうと不思議でした。実際はそうではなく、テントは別荘なんです。遊牧民は砂漠が好きですから、週末になると金持ちがテントで生活するんです。これには驚きました(笑い)。

ゴルァ、武部クンw

 森本 話を戻しますが、東アジアの地域主義が進んできて、中国をどういうふうに考えればいいのか、非常に難しい状況に入っていきます。

 自民党としては、今後の日米関係をどう思っていますか。私は、日本は財政など国内問題を処理しなければいけない一方で、同盟国としての役割が増えるという、大きなジレンマに陥っていくとみています。

 武部 もうジレンマを超えているのではないですか。将来を展望した場合、日本の人口の絶対数が減り、少子高齢社会にさらに拍車がかかることになりますと、若い世代には老後は安心できるのか、未来はあるのか、という不安感が大きくなっています。

 グローバルスタンダードで生きていくためには、日本は国際社会で信頼される責任ある国家として立っていかなければなりません。目の前には中国という経済的にも政治的にも大きな国が立ちはだかっています。この中国の動向がわが国の経済にも、安全保障上でも非常に大きな影響を与えているという状況の中で、北東アジアの安定を脅かす北朝鮮問題があります。

 北朝鮮問題では、わが国にとって拉致問題は入り口です。横田めぐみさんの遺骨といわれていたのがまったくそうではなかった。これまで私は「経済制裁については、そのリアクションというものを覚悟しなければならず、慎重にならざるを得ない」と言っていたのですが、この期に及んでは経済制裁も否定できません。

 わが国の外交戦略の基軸は日米同盟であり、その日米同盟も世界の中の日米同盟でなければなりません。今までは日本の安全保障と防衛のため、日米安保条約に基づいて米軍の協力を求めるということでしたが、日本の安全のためには周辺の安定が必要です。さらにわれわれにとっての脅威は、テロや大量破壊兵器、生物化学兵器というものに広がっています。自国の安全のためには国際社会の安定が不可欠だという背景があって、米軍の再編問題が起きていると思います。

 となれば米軍の再編問題に、日本が積極的に協力していくのは言うまでもないことです。しかし、国内の財政事情も厳しい。社会保障制度改革も展望は開けていません。私はそうした問題が国会論議の中心になってくると思うし、そのためには自民党内がまとまっていく必要があります。



◆新春正論対談 森本敏氏Vs武部勤氏(4-3)

 森本 私もまったく同意見です。米軍再編は、アメリカがどういう提案をしてくるか、必ずしもよく分かりませんが、第一軍団司令部を日本にもってきたいという考え方に変わりはなさそうで、もう一つは日本側が言い出している沖縄の負担軽減です。最初のほうは、基地問題もありますが、その前に安保条約第六条でいう極東との関係において考え方を整理しないといけません。地元には反対があると思いますが、国民に分かるように整理する必要があります。

 ただ、沖縄の負担軽減は、現に沖縄に展開している海兵隊を全部他の地域に移転できるのならいいですが、日本の抑止機能を維持するため、ある程度日本のどこかで受け入れざるを得ないというとき、今までは北海道も候補地の一つでした。候補とされた地域がすぐに米軍を引き受けることは、政治的にも大変難しい問題を含んでいます。本土で沖縄の海兵隊を受け入れることについて、どう考えておられますか。

 武部 沖縄の負担軽減は、その分全部を外国に持っていってほしいということにはなりません。わが国における抑止力機能をしっかり維持することを考えたら、日本国民がそれぞれ負担していく覚悟を決めなければならないと思います。政治の場でそのことを明確に説得していくことが大事です。

 森本 日本人は総論賛成で各論に反対する性格があります。しかし、この問題は結局トータルで日本の自衛力と在日米軍の機能を、日本の国家の安全保障のため総合的な抑止機能をどのように発揮させるかという問題に帰着します。その意味で日本の中で米軍の一翼を引き受けることを、ぜひとも実現すべきだと思います。

 武部 私も同じ考えです。

 森本 日露問題は、昨年九月に起きた北オセチアの学校のテロ占拠事件の後遺症が、いまなおロシアの中に深く残っています。プーチン大統領の中央集権化が強化され、一方ロシア人のナショナリズムが大変高揚している状況で、昨年プーチン大統領から二島返還という変化球が投げられました。プーチン大統領が今年来日するのか、まだ不確実ですが、訪日する、しないにかかわらず、北方領土問題は前に進めないといけない。日本の重要な外交課題ですし、この二島返還論をどのように日本として受け止めるか、われわれは速やかに考える必要があると考えます。

 私は個人的に、日本国民の気持ちは四島一括以外にはあり得ないと思いますが、ロシアで大変強いナショナリズムが吹き荒れる状況下に、わざわざプーチン大統領が二島返還を提案してきた。この変化球を打ってみないとヒットは出ません。将来、あと残りの二島という道を残しながら、取りあえず目の前にある二島返還案の交渉に乗り出すことが今は一番重要で、これを見逃したら、恐らく今後相当長い間にわたって日露の北方領土交渉は進まないのではないかと考えています。

 武部 私は去年サハリン州に参りまして、現地の知事や識者と話をして感じたのは、四島一括返還は日本の政治家として主張せざるを得ません。ただ、ロシア政府の二島返還論は、一九五六年の日ソ共同宣言を一つの根拠として言ってきていることです。

 その間の溝をどう埋めていくかということであり、森本さんは、打ってみなければヒットはないとおっしゃいましたが、四島一括返還と四島の帰属とはかなり考え方が違います。今後、四島の帰属問題が日露政府両首脳間のポイントになってくるのではないでしょうか。

 日本人からすれば、日ソ中立条約を破って攻めてきた侵略者であり、元居住者にとって四島は父祖の地、わがふるさとです。しかし、戦後六十年たち、そこに長年住んでいるロシア人に、「ここはお前の土地ではないから出ていけ」とは簡単に言えません。ビザなし交流でお互いに得た経験から、友情みたいなものが芽生えているのです。

 サハリン・プロジェクトなど日本が相当投資をして開発し、サハリン州は随分インフラも整備されました。私も行きましたが、非常に友好的な雰囲気が拡大しています。

 私は、もし四島の帰属の問題を解決し、日露友好平和条約を締結することができたならば、ロシアはODAの対象国になっていませんが、少なくともサハリン州とか極東ロシアについてはODAの対象地域にできる、そうしたらまだまだインフラ整備もできるのではないか、そのことは日本にとっても、とくに北海道にとっても大きなメリットがありますし、そういう現実的なことを考えましょうという話をしてきました。お互い言いたいことを応酬しているだけでは何事も進みません。

 森本 ロシア人は戦争で確保した領土を平和交渉によって返すべきではないという単純なナショナリズムが強い。北方領土以外のところでは、とくにモスクワを中心に大変強い。にもかかわらずプーチン大統領が二島返還という変化球を投げてきた政治的背景をわれわれは十分に理解して、迎え撃つ覚悟が必要ではないかと思います。


◆新春正論対談 森本敏氏Vs武部勤氏(4-4)

 武部 日中問題ですが、この間のサンティアゴにおける胡錦濤・小泉会談で、小泉首相は靖国問題などで相当厳しいことを言われても批判の応酬を避けました。私はこれは非常に勇気ある判断で、あとは中国の出方が大事になりますよと申し上げたんです。

 森本 中国の経済発展は確実に進んでいます。(?w)しかし、この経済発展の裏に農村部の不満、エネルギーの問題、金融や流通システムの問題、国営企業の非効率化、都市、中央と地方の格差など、大変数多くの問題を抱えています。中国の指導部も国内の安定と経済発展をどのようにマネージするかという重要な問題に直面している印象を強く持っています。

 ただ、米中関係は、われわれが考えている以上に良好で、今の台湾が独立の機運を示すことについてアメリカは大変警戒的で、台湾にアメリカ側が完全につくとは、私は見ていません。そういう意味で、中国は国内の経済発展と内政安定を図りながら、一方でアジア太平洋の他の地域に対する影響力を拡大しようと国防軍を近代化し、域内の軍事的な活動を広げつつあります。これが周辺諸国の大きな懸念となってきています。

 日本は財政上、防衛力を減らしている状態です。中国のこのような拡張主義に日本はどう対応したらいいか、大きな難問といえます。であれば中国との経済関係はより緊密に、政治関係は常に警戒心を持ちつつ、彼らが不安定要因にならないように関与していくという政策が一番いいし、それしかないのではないでしょうか。

 例えば靖国問題を考えた場合、中国に言われたからといって、われわれが靖国問題を解決するのは論理としておかしい。しかし、このまま放置してもいいとは考えていません。日本から前向きに処理をしていくか、無視するか、新たな発想の転換を図って前に進めていくか、いろいろな考え方があるでしょう。

 武部 中国の国内は、共産主義政権といいながら市場経済を体験し、貧富の差が拡大し、沿岸部と内陸部は相当な格差があります。一説には、中国人の5%は日本人よりも金持ちだといわれています。だから今、二千円のリンゴが輸出されています。北海道のサケも売れているんです。ホタテも売れています。ただ、そのような経済の論理でいいのかなと、少し足踏みする感じがあります。

 IT化が進んでいることにより(携帯電話がミソらしいw)、中国政府の国民に対する統制、統治にいろいろな問題が起こっているのではないですか。だから、むしろそういうことを背景に国民が暴発しようものなら、大量破壊兵器とか、テロとかに匹敵するぐらい重大な危機になります。ですから中国の動向はわが国にとってもアジア全体にとっても目を離すことはできません。

 靖国の問題についても、中国は靖国を象徴にしてそればかり言っていますが、日本が中国に言うべきこともたくさんあります。原潜の領海侵犯は主権侵害ですから、もっと強調して大問題にしてしかるべきです。しかし、大問題にする選択肢をとるのではなく、今後二度と起こらないように厳しく中国政府に要求することでおさめる。中国も靖国問題にこだわるべきではない。大局的な見地で問題の話し合いをしようと呼びかけることが必要ではないか。先程、小泉首相が批判の応酬を避けたと言ったのはそういう意味です。靖国参拝を首相は続けられるのではないでしょうか。

 森本 北朝鮮については、制裁して済むのですか。私は「日朝平壌宣言」そのものが事実上、北朝鮮からホゴにされているということを、きちっと日本国としてメッセージを送る必要があると考えています。北朝鮮問題は今年正念場を迎えると思いますが、アメリカが北朝鮮をどうしようと考えているかが大きく影響してきます。

 武部 ブッシュ政権には、北朝鮮との直接対話をしていただいていいが、六者協議による対話と圧力という路線は変わりません。大事なことは政府に一元的に外交を任せるというのではなく、議員外交がそれを補強したり、安全弁になる。そのことで、政府も思い切ったことを言えます。

 森本 私は今年後半から確実に憲法という作業に入っていくと思います。その際重要なことは手続き法である国民投票法が成立しないと、憲法問題を立法府で手続きできません。それを通常国会で通していただきたい

 武部 それは通ると思います。

 森本 最後になりますが、日本はこれから国力の相対的低下は避けられず、人口も財政も厳しくなり、相当思い切った改革を断行しなければ子孫に豊かな将来はないと思います。国内では社会の規律や秩序も低下し、子の親殺し、親の子殺しなどが見られ、治安面でも不安が広がっています。こうした日本をどうするかという問題は深刻です。

 日本は今後、コンパクトではあるが治安も良く、環境にも恵まれ、快適な空間を享受できる文化的な薫りの高い国家で、アジアの人から日本に別荘を持ってみたい、子供を留学させたいと思われるような国として生存することが必要です。そういう国家像を具現するためには国民が犠牲を払っても諸改革を進め、中国や北朝鮮から来る脅威を排除できる独立完結性の高い防衛力を構築することが必須だと思います。

 武部 自民党は十一月十五日に立党五十周年を迎えます。小泉総裁(首相)を本部長に新憲法制定推進本部を設け、今年は新しい憲法草案を起草することにしています。わが党は政権公約で教育基本法改正も国民に明らかにしており、広く国民的論議を踏まえ、望ましい国家像や日本の将来構想を打ち出して参ります。

 政権公約である小泉改革宣言の中でも、信頼される国際国家の一員として責任を果たす外交・安全保障政策を掲げています。二月末までに自民党の新しい理念・綱領を取りまとめますが、森本さんのご指摘を踏まえ、改革の芽を大きな木に育て、新しい日本を目指して頑張りたいと思います。

                  ◇

 【拓殖大学教授・森本敏】

 もりもと・さとし 昭和16年、東京都出身。防衛大学校卒業後、防衛庁入庁。その後、外務省に入省し、在米日本大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長などを歴任。平成12年から拓殖大学国際開発学部教授を務める。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。著書は「安全保障論」「国のこころ国のかたち」など多数。近著には「イラク戦争と自衛隊派遣」(編著)がある。

 【自民党幹事長・武部勤】

 たけべ・つとむ 昭和16年、北海道出身。早稲田大学法学部卒業後、三木武夫元首相主宰の中央政策研究所研究員。同46年に北海道議会議員に初当選し、以後連続4期当選。渡辺美智雄通産相秘書を経て、同61年衆議院議員に初当選。現在6期。この間、北海道開発庁政務次官、衆議院商工委員長、自民党政務調査会筆頭副会長、農林水産相、衆議院議院運営委員長などを歴任。現在は自民党幹事長を務める。






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